芸術的評価の高い小塚さんだが、現役時代は意外にも「ジャンプは得意ではなかったので、電卓をたたいて得点を伸ばしたタイプ」だったという。

 そのときにもっているジャンプやスピン、ステップなどの規定の技術をどう組み合わせれば得点が稼げるのか、ルールを理解し、卓上で計算し、得点を出せるよう常に考え、都度のルール改正に対応してきたという。

「ルール改正に合わせて、自分の持つパズルを増やして、全体を広げつつ、あてはめていくような作業です。(現役時代は)それに早くから気づけて、点数が伸ばせました。銀メダルをとった世界選手権(2011年)のフリー演技で、4回転ジャンプは1回しか跳びませんでしたが、技術点は100点近い点数が出ました。本番の出来も大事ですが、どういう構成だったらレベルが上がって得点が伸びていくのかを緻密(ちみつ)に計算したからこその結果です」

 毎回五輪シーズンの後には、大きめなルール改正があるという。

 今回のルール改正で小塚さんが感じたのは、技術的な評価の明確化だけでなく、芸術的視点も検討されている点だという。

「全体を総括すると、これまでのルール改正とやるべきことは同じ。人間ができるジャンプは5回転までといわれています。ジャンプの技術はもう限界に近づいてきている印象を受けます。どこを磨いて少しずつ技術点を上積みするかです。ジュニアでは、その技術点の中につなぎの美しさを見せる『コレオグラフィックシークエンス』が入りました。ジャッジの意識(採点の配分)が、技術に傾いたというものではなく、どちらかというと芸術点に傾いていっているのでは、というのが僕の見解です」

 その上で、こう付け加える。

「それはフィギュアスケートとして残すべきことなので、よいことだと思います。そうでなければフィギュアスケートというスポーツが、ただのジャンプ大会、技術大会になってしまいます」

 そして、AIによる採点についても指摘する。

「採点の上では、AIの話もでていますけど、それは回転数といった人間が見落としてしまう部分を補足するものであれば問題ないと思います。ただ、人の感情に訴えるものはどこまでいっても人間が評価すべきものだと思います。人間が判断するからこそ面白い。全てをAIに判断させるというのが、果たしてフィギュアスケートといえるのだろうか、という疑問があります」

 競技であり芸術でもあるフィギュアスケート。知れば知るほど奥深い。ルールが難しいスポーツだが、今回の改定を機に、理解を深めて楽しみたい。

(週刊朝日・大崎百紀)

※週刊朝日オンライン限定記事

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