つまり、「美的価値」は何が良くて何が悪いかという価値判断がしやすいという。
それに対し、「芸術的価値」については、「芸術史との関係性によって立ち上がるものです」とし、こう説明する。
「たとえば、バレエ『白鳥の湖』をモチーフにして、白鳥であるオデット姫の憂いを表現するという演技が展開された際に、バレエの原作を知っているか否かで、その演技の見え方や評価は変わってしまいます。フラメンコの舞踊様式を踏襲した演技の芸術的価値について適切に評価を下すためには、フラメンコをめぐる舞踊や音楽をはじめ、スペイン文化に関する理解が必要になります。『芸術的価値』を判断するためには、広範な芸術に対する知識や教養が必要になってくるのです。今回の改正を見ると、少し芸術的価値をめぐる評価基準が簡素化され、美的価値に比重が傾いていっている印象を受けました」
さらに、採点するジャッジの側についても提案する。
「採点基準が競技や演技のあり方を大きく左右する大事な要素であることは当然ですが、誰がその基準を運用し、演技を採点するのか、ということも重要です。先ほども言及しましたとおり、『芸術的価値』を評価するためには、それ相応の知識や教養、経験が必要になります。ですので、どのように評価者の審理眼を育んでいくのか、あるいは、これからのフィギュアスケートのジャッジには、どのような知識が求められるべきなのか、ということをしっかり検討して、演技構成点を的確に評価できるジャッジを養成していくことも大事な課題になると考えています」
曲の理解という点でいえば、バンクーバー五輪8位入賞の小塚崇彦さん(トヨタ自動車)は、
「音楽と技術の融合で、人に感動を与えるのがフィギュアスケートだと思う」
と話す。
16年のアイスショー「カーニバルオンアイス」の場。布袋寅泰さんの生演奏「ギターコンチェルト」の曲に合わせて、なめらかなスケーティングを見せ、優雅なトリプルアクセルで観客を魅了した。曲に後押しされたのが大きいという。
「あの時は、失敗する気がしなかった」
