内田樹・岩田健太郎『リスクを生きる』(朝日新書)※Amazonで詳細を見る
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内田:今の岩田先生がおっしゃったことはきわめて本質的なことだと思います。知性の本来の働きは「自分は何を知らないのか」を精密かつ網羅的に記述できることだからです。

 僕の書斎はご覧の通り、天井まで本棚です。来た人がよく訊くのは「いったい何冊ぐらいあるんですか?」と「これ、全部、読んだんですか?」です(笑)。全部なんか読んでるわけないじゃないですか。本棚に並んでいる本のせいぜい二割くらいしか読んでない。あとの八割は「いつか読みたい本」「いつか読まなければならない本」です。にもかかわらず、いまだ読むに至ってない。今の自分の年齢を勘定に入れると、たぶん書斎にある書物のほとんどを僕は読まずに死ぬことになる。数千冊の「死ぬまで読まない本」に囲まれて暮らしているわけです。それなのに、今も本を買い込んでいる。読まない本だけが増え続けてゆく。何のために「読まない本」はここに並んでいて、僕は毎日それを見上げて暮らしているのかというと、自分の無知を可視化するためです。

岩田:ああ、なるほど。とてもよく理解できました。

■人口減に機能しない資本主義の弊害

内田:非専門家の予言をすれば、日本が避けて通れない今後の課題は「人口減」です。確実に、マンパワーが減っていく。昭和から続いた人口増が頂点を迎え、これから減少へと転じます。にもかかわらず、国も企業も「マンパワーありき」の考え方から脱け出せていません。コロナ対策の保健所の疲労困憊にしても、「そもそも人員が足りない」のに気づけない。人海戦術はもう、通用しないのです。

岩田:特に、政府の感染対策はマンパワーの使い方がヘタ過ぎます。例えば、濃厚接触者への対応。現在、コロナウイルスの濃厚接触者は自宅待機が基本です。宿泊施設に集めるといっても強制力がないので、自宅での自主隔離になる。そこへ2日に1回の頻度で保健所の担当者が訪問してPCR検査をするんです。その往復時間だけでも相当な負担なので、今後感染が広がったら対応しきれなくなると思います。

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岩田健太郎さんが「訪問PCR検査は意味がない」と断言する理由