専門家と非専門家の違いとは何なのか? 最新共著作『リスクを生きる』(朝日新書)で哲学者・内田樹さんと医師・岩田健太郎さんは「専門領域のフレームが見えている人」がプロフェッショナルだと説く。リスク社会を生き抜くためには「自分は何を知らないのか」を知るべきだという2人の対談の一部を本書から抜粋してご紹介する。
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■専門家と非専門家の違いとは
内田:感染症の専門家としての岩田先生のスタンスはよく理解できます。一方で僕は「素人の立場」です。素人だからこそ言えることってあると思うんです。専門家は責任があるから言い切れないけれども、素人は「僕は素人です。だから僕の話は真実含有率が低いです」とお断りをしておけば、割と好きなことが言える。それが素人の特権だと思うんです。信頼性はないにしても、そういう発言が「そういう見方もあるのか」という気づきをもたらすこともたまにはないわけじゃない。
だから、僕はよく「予言」をするんです。専門家は学術的厳密性を重んじますから、軽々には未来予測をしませんけれど、僕は素人だから遠慮なく予言をする。それこそ素人が引き受けるべき役割じゃないかと思うんです。どんな予言をしても、遠くない未来に現実によって予言の正否の判断が下されるわけですから、間違った予言をしても「被害」は長くは続きません。
岩田:そうですね、当たるか、外れるか。現実が予言を裁断してくれます。
内田:予測をしておくと、「ほんとに内田の言う通りのことが起きるかどうか」という関心を掻き立てることができる。「外れたら、笑ってやろう」と思ってくれていいんです。それでも僕が立てた仮説に注意を向けて、その正否を吟味しようという気持ちを持って現実を観察してくれれば、それで僕としては十分なんです。僕の予言が当たったか外れたか知るためには、けっこう手広くかつこまめにニュースを追っていないといけないですからね。