「昨日は3件の小さな手術をしました。今日は朝起きて、医療物資を準備してから、数人の兵士に処方箋を書きました。その後、前線近くに住む83歳の高齢女性と4歳半の子どもを診察しました」
スケジュールはまちまちで、睡眠時間は不規則だ。気温の低下もこたえる。夜間は氷点下まで冷え込むなか、兵士たちは屋外で寝ることさえあるという。ソコレンコさんも時折せき込む。風邪を引いているのか、と尋ねると「大丈夫です」と答えた。
「ネット環境の問題はありますが、両親や友人とは数日に一度、連絡を取っています。両親も医師で、私を心配していますが、応援してくれています」
20分ほどのインタビューに丁寧に答えたあと、慌ただしく仕事に戻っていった。
■避難先で医療支援
医師免許を持つタラス・クラフチュクさん(28)は、侵攻後、首都キーウ(キエフ)から西に300キロ離れたヴォリン地域に両親と兄弟、恋人と車で避難した。現在は両親の実家で生活している。クラフチュクさんは医学部を卒業したが、3年前から製薬会社のMRとなり、避難先で医療に携わっている。
「前線に送る医薬品を仕分けて袋詰めするボランティアをしています。困っている人たちを助けたいし、ウクライナに貢献したいからです」
当初はキーウに比べて安全といわれていた西部だが、危険は近づいてきている。クラフチュクさんは言う。
「2、3月に軍用飛行場がミサイル攻撃を受けて、軍人4人が亡くなり、6人が負傷しました。日中は警報が鳴ることがありますが、もう慣れてしまいました」
3月20日には、ウクライナの大統領府が「ヴォリンへのベラルーシからの攻撃リスクが高いと見ている」と発表した。
「避難する人たちをポーランドの国境まで車で運ぶ手伝いもしています」
アパートで寝ることができるし、食料は足りている。キーウからの避難者が責められるという報道もあるが、「あり得るが、見たことはない」。心配なのは、「戦争が長く続き、戦闘地域にいる家族や友人を失うこと」だ。(編集部・井上有紀子)
※AERA 2022年4月11日号より抜粋