医師として従軍したオレクサンドル・ソコレンコさん(左)。日夜、住民や兵士の診療にあたっている(写真:ソコレンコさん提供)
医師として従軍したオレクサンドル・ソコレンコさん(左)。日夜、住民や兵士の診療にあたっている(写真:ソコレンコさん提供)
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 ロシアによる侵攻が続くウクライナで、避難した人々が辿り着いた場所で、医療に従事する人々がいる。医師たちの立場や選択はさまざまだ。AERA 2022年4月11日号から。

【写真】ウクライナの外科医、ソコレンコさんのリュックの中身

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「兵士や前線付近に住む住民を診療しています。機密保持のため正確な場所は言えませんが、前線から数キロの場所にいます」

 ウクライナの外科医、オレクサンドル・ソコレンコさん(26)は、3月下旬、小屋のような場所で、そうオンラインインタビューに答えた。

「このエリアには避難する場所がない人、この地域に残っている人たち、兵士たちがいますが、前線付近では医師も避難して不在の状態が続いています。このあたりにいる医師は私だけです。仲間の医療従事者数人と活動しています」

 ソコレンコさんの脇には緑色のリュックサックがあった。医療物資が詰まっている。

「銃創を負った兵士3人を同時に治療したこともありました。さまざまな症状を抱える住民を診察しています。でも、包帯などほぼすべての医療物資が不足しています。いま、ここでは必要な医療行為の50%しかできていません」

■日本に留学したい

 医学部を卒業してまだ数年。侵攻が始まった2月24日、それまで勤務していた病院を離れ、従軍した。

「勤務していた病院には医師が十分いるし、設備も整っている。この非常事態を前に何もしないのは嫌でした。祖国で起きていることに対して積極的に行動したかった。これは私にとっての武士道です。私たちは他に行くところもないし、行きたくもない。ここは私たちの土地で故郷なのです」

 そう言って、ヘルメットと防弾チョッキを見せた。日本から支援を受けたものだという。

「日本人の精神性や侍魂は、私たちの祖先であるコサックの精神と同じように強いことを知っています。私は日本が好きで日本語を少し勉強しています。いつか日本に留学したい」

 ロシアの侵攻が始まって、およそ4週間たった。たった一人で専門外の診断もこなす。

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