
「全歌舞伎作品中、最も官能的」……かつて絶賛を浴びた片岡仁左衛門(当時は孝夫)、坂東玉三郎コンビ主演の「桜姫東文章」。昨年、二人による上演が実現。映像化を機に、坂東玉三郎さんにインタビューした。
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──大変評判だった舞台が昨年、36年ぶりに上演されました。
36年ぶりと、何度も言われるんですが、全くそんな感じはしないんです。桜姫は18年前(2004年)に、歌舞伎座で他の方と演(や)っているし、仁左衛門さんとは36年ぶりですが、別の演目ではずっとなにかにつけて一緒にお芝居をしていますので久しぶりな感じがしません。
──昭和60(1985)年以来のブランクは、お二人の間にはない、ということでしょうか。
はい。というのも、現在の定本、67年の国立劇場の舞台のビデオが残っていなかったので、二人で一から考えて創ったというところがあったんですね。それを蘇らせただけで、改めて創作する部分はほとんどないんです。もちろん、年齢は重ねているし、仁左衛門さんがこの場面は今ならこうしたいというのもあって、それは道具とか、早替りの場所とか工夫なさったけど、二人の間で新しいことはなかったです。悪い意味ではなく、新しくはあるけど、特別に改めて創作した箇所はないんです。
──桜姫の他の役にはない魅力とはなんでしょうか。他の役ではしない気遣いはありますか。
体力勝負です。(上下巻あわせた)通しだったら5時間。こんなに長いものは他にはないように感じます。私も大役ですけど、仁左衛門さんの二役は休む暇が少しもないんです。自分が引っ込んでいる間にも仁左衛門さんはずっと支度している。とても大変だと思います。
魅力と言えるのかわかりませんが、聖女も、悪魔もできる。一人の女方として、男が女をやる。その中でもさらに多面的なところが一回の舞台で見られる、それが(作者)鶴屋南北の世界。南北の世界はあまり理屈で見てはいけないように思うんです。ある種、一貫性がないといったらいいのかなあ。いい意味でその場その場で書いているところがありますし、だからいろんな側面が見せられると思います。桜姫というくくりで強引に見せてしまう。