セクハラに泣き寝入りせずに「私は黙らない」と訴える人たち
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 最新作『生皮』で「性的被害」について描いた。加害者、被害者、その家族、SNSの反応……。それぞれの心情、「なぜ」に迫った。AERA2022年4月18日号の記事を紹介する。

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──井上さんの最新作『生皮』では「性的被害」「セクシュアルハラスメント」が描かれています。このテーマで作品を書こうと思われた理由は?

 きっかけは2018年のフォトジャーナリストによるセクハラです。その内容は知れば知るほど虫唾(むしず)が走るようなものでしたが、その一方で彼は虐げられた人のために記事を書いていたという一面も持っていた。小説家の性かもしれませんが、どちらも同じ人間だということが、とても不思議でした。

 そんな彼にも家族がいるわけで、彼の家族はどう思っているんだろう、彼とどんな話をしているんだろう、被害者の家族はどうしているんだろう……。さらには、SNSなどで反応する人たちもいて、どういう人たちがどういう心情で書き込んでいるんだろうということも気になりました。知りたい、と思ったんです。それが最初の動機です。

──当事者たちの声がとても生々しくリアルです。

 私自身は後に傷が残るような形でのセクハラというのを受けたことはありませんが、被害者の告白を集めた本などを読む中で、これは想像していたよりもはるかにひどい、絶対に許されないことだと感じました。どこまで当事者の気持ちがわかったかといったら、自分では判断できませんが、できるだけ近づこう、理解しようと努めました。私が書くのはルポではなく小説です。小説にできること、というのを考えました。

──セクハラの加害者はカルチャーセンターの創作教室の講師で、被害者は受講者です。あえて小説界を舞台にした理由とは。

 ある一面は人格者であったり、人間的に良い部分を持っていたりする人が、別の面ではセクハラのようなことをやってしまう。その仕組みを理解する、彼らの中の理屈みたいなものを解明しようと思ったときに、自分のほうにひきつけて考えるのが一番考えやすかったんですね。

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