林:それで向こうの授業についていけたんですか。
加藤:ついていくのは大変でした。留学が決まってから英会話教室にも通っていましたが、その程度で向こうに行ってしまったので……。「聞く」ことに関しては、ほぼ向こうに行ってから習得したと思います。
林:耳がいいんじゃないですか?
加藤:人より耳が大きいので(笑)。それでも壁にはぶつかりました。街なかで聞く英語って、学校の授業で習うものと違うので、「これが言えないと僕は電車に乗って家に帰れないんだ」という緊張感もありましたし、最初のころはぜんぜん聞き取れませんでした。
林:なるほどね。
加藤:いちばん言語の壁を感じたのは、アクターズスクールに通っていた時期で、向こうの同年代のティーンたちと即興芝居をするんです。たとえば「お別れ」という言葉からお芝居をつくる。5分間話し合って、「誰が上手(かみて)から出て、誰がどのタイミングでどうするか」といったことをみんなで話すのですが、会話のテンポが速いんですよ。「こうしたいんだ」という自分の意思がこもっている10代の子の英語って、マシンガンのように速いんです。それを聞くだけで精いっぱいで、自分の意見を何も言えませんでした。
林:悔しかったでしょうね。
加藤:悔しくて悔しくて、「うわ、英語むずかしい~!」と思っていました。
林:そこでメゲなかったのがすごいですね。
加藤:行きの電車、帰りの電車は本当に憂鬱(ゆううつ)でした。「いまから英語地獄だ……」と思ったり、終わったあと、「あの英語、そういう意味だったんだ。だったらあの芝居は成り立っていなかったかもしれない」と思っているうちに乗り過ごしたり、「きょうはテンション上げるためにハンバーガーを食べるぞ!」と思って行って、買って袋を開けてみたら、思いどおりに注文できていなかったりとか……。
林:途中で日本に帰ろうとは思わなかったですか。
加藤:思わなかったです。楽しかったですし、間髪入れずに話す瞬発力は、そういうところで学べたと思います。