マキタ:熱心な時期もありました(笑)。モテたい一心でいろいろアプローチをかけてましたね。
林:さっきスタッフと「マキタさん、田中小実昌さんそっくり」って話してたんですけど、その風貌、だんだん得難いものになってきましたね。
マキタ:役者の仕事をし始めたとき、「なんだ、この原石は」と思っていただいたようなんですけど、僕自身、荒くれ者系の人間だと思ってたので、まさか小実昌系になるとは思ってなかったんです。僕、顔自体が古着化してるから、そのデッドストック感がいいと言っていただいてましたね(笑)。
林:この本、帯に「異能の人」ってキャッチフレーズがついてますけど、いいキャッチフレーズですね。“異能の人”の系譜っていうのがあって、田中小実昌さんとか殿山泰司さんとか……。
マキタ:あと金子信雄さんとか、みんなある種の雰囲気を持ってますよね。小さくてはげてるおじさんばっかりですけど(笑)。
林:田中さんは直木賞作家ですから、文章がうまいのは当然ですけど、金子さんも殿山さんも、文章を書くとすごくうまかったんですよ。「どうせすぐこの世からおさらばするんだからよう」みたいな雰囲気で。
マキタ:おもしろいですよね、世の中を斜めに見ている目線がね。個性派俳優というか、コミさんみたいな独特のスタンス、存在感、いいなと思っていたんですけど、まさか自分がその系譜に置いていただけるなんて、思ってもいませんでした。
林:あの方たちみたいに、マキタさんも、役者の世界から書くほうの世界にも入ってきたわけなんですね。
マキタ:でも、今回の作品は人生で一回こっきりしか書けないものを書いたので、これにとどまらず書いてみたいことはあるんです。ただ、自分がいいなと思える文章の形はこの本とぜんぜん違うところに意識があって、もっと省略された文章を書きたいなと思ってます。この本はスーパーマックスで書いた感じなので。
(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)
マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。28歳のときに芸能界デビューし、音楽と笑いを融合させた「オトネタ」を提唱。各地でライブ活動を行うほか、ドラマ、映画、バラエティー、ラジオなどで幅広く活躍。2012年の映画「苦役列車」で第55回ブルーリボン賞新人賞、第22回東スポ映画大賞新人賞を受賞。著書に『越境芸人 増補版』『決定版 一億総ツッコミ時代』『すべてのJ−POPはパクリである』など。3月、自身初の小説『雌伏三十年』を出版した。
※週刊朝日 2022年4月22日号より抜粋