子どもの虐待死事件も後を絶たない。警察庁によれば昨年、虐待で54人の子どもが亡くなった。1週間にほぼ1人の割合で、子どもが虐待で命を落としているのだ。
「児童虐待をなくすには、親の回復が不可欠です」
そう指摘するのは、児童福祉・心理の専門職研修や政策提言などを行う「エンパワメント・センター」(大阪府高槻市)を主宰する森田ゆりさんだ。日米両国で長年にわたり虐待・DVの被害者支援と加害者の回復に携わってきた森田さんは言う。
「児童相談所(児相)は虐待を受けた子どもを救出する『介入』の後、子どもを里親や施設に送致しますが、虐待をした親への働きかけが不十分なのが、日本の制度の特徴です。子どもを引き離しても親が変わらなければ、子どもを家庭に返せません。虐待問題の根本的解決には、親の回復が不可欠なのです」
森田さんによれば、虐待する親には「多重ストレス」と「孤立」──この二つの共通点があるという。
「多重なストレスは、DV被害や過去のトラウマ、過労、子どもの特性、うつなどの精神疾患など多様です。それらを同時にいくつも抱えている親が、孤立して子育てをしている中で虐待は起きやすい」
森田さんは2000年の児童虐待防止法の制定にも関わるなか、日本には「親の回復」という概念がないと痛感。翌01年に、虐待する親の回復を促す「MY TREEペアレンツ・プログラム」を開発し、以来20年間実践してきた。
冒頭の女性は、住んでいる市の広報誌でMY TREEペアレンツ・プログラムを見つけ、すがる思いで申し込んだ。悩んでいる親は自分だけではないと知り、虐待するのは決して子どもが嫌いだからではないと気がついた。 「自分を客観的に見ることができるようになりました。調子が悪いと感じたら、別室に行き子どもと距離を置くなど、気をつけています」(女性)
(編集部・野村昌二)
※AERA 2022年4月18日号より抜粋