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若い頃からかかりつけの歯科医院があり、熱心に通っていた親。おかげで健康な歯が20本以上残り、なんでもおいしく食べることができている。ところが80歳を過ぎ、徐々に自分のことができなくなり認知症の疑いがあると診断されて……。これに似たような状況で悩んでいる人はいるでしょう。せっかく維持した健康な歯を守ってあげたい。でも、認知症の患者を歯科医院は診てくれるのでしょうか? 暴言を吐いたりしたらそれこそ、大迷惑では? 若林健史歯科医師に聞きました。

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 認知症患者さんのご家族から、

「治療を受けたいのですが、認知症だから先生に暴言を吐いてしまうかもしれないのです。それでも大丈夫でしょうか?」

 などと問い合わせを受けることはよくあります。そんなとき私は、

「大丈夫ですよ。気にせずに受診してください」

 とお答えしています。

 当院は1989年に開業、今年で33年になります。このため、開業当初から通ってくれている患者さんの中には年を経て、認知症を発症された人が少なからずいらっしゃいます。

 初診時、患者さんの多くは現役で働き盛り。治療の合間に仕事の大変さなど、プライベートなお話もたくさんしました。長年、メインテナンスに通ってくれている人は健康な歯をたくさん残すことができており、そのことを感謝されることは歯科医師として一番の喜びです。

 こうした患者さんを可能な限り、受け入れ続けたいという考えを持っています。

 クリニックのエントランスにつながる直通のエレベーターを設置したのもこのためです。最近は超高齢化社会を見越し、地方を中心にバリアフリー設計にしている歯科医院が増えています。

 私は特に認知症に詳しい歯科医師ということではありません。

 ただ、長年やっていると、それまで意思疎通ができていた患者さんとのやりとりが少しちぐはぐになったり、ということがあります。

 認知症でなくても、足腰が弱くなったり、目が見えにくくなって治療用の歯科用ユニット(椅子)に座るのに時間がかかるようになったり、という変化が見られるのは普通のことです。

 その都度、患者さんが快適に治療を受けられるよう、受け答えを工夫したり、楽に治療を受けられるように試行錯誤をしてきました。患者さんに勉強させてもらい、徐々に認知症の患者さんにも慣れてきたのだと思います。

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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認知症の患者さんを診療していて気づいたこと