
「自分を客観的に見ることができるようになりました。調子が悪いと感じたら、別室に行き子どもと距離を置くなど、気をつけています」(女性)
児童精神科医で、福井大学子どものこころの発達研究センター客員教授の杉山登志郎(としろう)医師も、虐待する親の治療は重要と語る。
「虐待は家族の病理です。子どもを治療しても、加害者である親を治療しなければ何の解決にもなりません」
杉山医師が、虐待する親の治療のキーワードに挙げるのがフラッシュバックだ。
「フラッシュバックというのは状況の再現です。例えば、言うことを聞かない子どもには、自分がされたのと同じことを子どもにもしてしまいます」
苦しむ自分を肯定する
フラッシュバックに限定した治療を「トラウマ処理」と呼ぶ。杉山医師は、治療に短期間で行える簡易型処理を施し、トラウマによって起きてくるフラッシュバックの圧力を減らし、フラッシュバックで振り回されなくなる状況に持っていく。
フラッシュバック治療は治療の第一歩。その上で、安心感や対人関係を取り戻すことが大切になると話す。
「対人関係を取り戻すには、安定した対人関係を提供してくれる人がいないといけません。フラッシュバックが治まっても全ての治療が終了するまで2年近くと時間がかかりますが、それだけ虐待によって受ける影響は大きいと言えます」
先の女性は、いま子どもを虐待して苦しんでいる親にこう呼びかける。
「大切なわが子を虐待したことへの自己嫌悪感は激しいと思います。けれど、苦しんでいる自分をまずは肯定してあげてほしい。頑張っているから、苦しいんです」
女性は自分を見つめ直し、幼少時から絵が好きだったことも思い出した。現在はアート工房に就労し、収入も得られるようになったと話す。そして、こう言った。
「前は子どもを心からかわいいと思えなかったのに、今は『かわいいなぁ』って、しみじみ言えるようになりました。まるっこい顔や体も性格も。今まで言ってあげられなかった分、1千回でも言いたいです。親バカですかね(笑)」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2022年4月18日号より抜粋