ふたりは団地に暮らす高齢者と交流し、フルーツサンドやホットケーキを食べ、釣り堀に遊びに行く。片方がしんどいときは片方がかばうといったルールができている。穏やかな生活を描く一方で、ふたりが経験した別れや災難について、詳細に語られることはない。

「たぶん、何かと何かのあいだが好きなんです。大きな事件を書いてしまうと、日常生活の細かい出来事はどうしても省くことになってしまいます。実際の生活でいちいち理由づけはしないように、今回は書こうと思いました」

 穏やかな暮らしのなかにも、コロナの影は見え隠れする。書きながら、「団地的な『ここにいれば平和』という暮らしでも、社会との関わりと無縁では生きていけないんだということも感じた」と、藤野さんは言う。

「ふたりの暮らしかたそのものが団地的なのかもしれませんね。昔はふつうだった団地のゆったりした空間の使い方や不便さを非効率だと思う人もいるかもしれない。けれど、ともかく今まで残ってきて、そこまで効率的じゃなくていいかも──と思う。そんなふうに団地を眺めている時間を、この物語にしたのかもしれません」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2022年4月18日号

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