香港メディアなどは、住宅地を視察した上海市トップの李強・市共産党委員会書記が、不満を持った住民から詰め寄られたと報じた。「ニンジンとジャガイモ、タマネギを二つずつしか支給されていない」「あなたたちは有罪だ」といった言葉を投げつけられたという。この際の様子だとされる動画が拡散した。
中国最大の経済都市・上海のトップを庶民がじかに批判し、それが多くの人に知られる事態は異例だ。李氏は習近平国家主席の腹心で、今年後半に開かれる5年に1度の共産党大会で最高指導部の政治局常務委員に昇格することが有力視されてきた人物でもある。
今回のロックダウンが長引いたことで、指導力を疑問視する声も上がり始めている。コロナの拡大が、党最高指導部の人事に影響する可能性も出てきた。
住民がいま食材を購入するため頼りにするのが、デリバリーや、マンションなどでまとめて商品を注文する団体購入だ。上海に10年以上住んでいる40代の日本人女性も利用する。4月1~11日に封鎖で自宅から一歩も出られない間、野菜などの配給は2回あったが、それだけでは足りない。グループチャットを通して団体購入の仲間に入り、大いに助けられた。
■高齢者らにしわ寄せ
一方で、スマホを使いこなせない高齢者が食べ物を手に入れられず、困っているのを心配している。封鎖で家から出られず、発熱しても病院に行けない子どもの話も伝わってくる。
女性は「ゼロコロナ政策は、弱い立場の高齢者や子どもにひずみを背負わせているのではないでしょうか」と語った。
こうした状況のなか、米国が動いた。国務省は4月11日、上海にある米総領事館の一部職員と家族全員に退避を命じたと発表。コロナの感染者が増加したことや、当局による規制を理由に挙げた。3日前には自主的な退避を認める決定をしていたが、退避の命令に引き上げた。
中国外務省の趙立堅副報道局長は12日の会見で、「中国の防疫政策は科学的で有効だ。我々は上海などがコロナに打ち勝つことに十分な自信がある」と述べ、「米国が人員退避の問題を政治化することに断固として反対する」と強く反発した。
さまざまな代償を伴う中国のゼロコロナ政策に対し、米国が「ノー」を突きつけたのではないか。筆者はそう受け止めた。
オミクロン株の影響が、市民生活や経済、政治、外交に広がっている。(朝日新聞瀋陽支局長・金順姫)
※AERA 2022年4月25日号より抜粋