作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、公共の電波で語られた性教育について。
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先日、「ラジオであなたの話をしているから聴いたほうがいい」と友人にすすめられた。TBSラジオ「アシタノカレッジ」という番組で、社会学者の宮台真司氏がゲストとして「性教育」を語る回だった。正確に言えば、「私の話」ではなく、私が長年売り続けている「バイブ」が話題になっていたのである。公共の電波で女性のマスターベーションが話題になること自体が珍しいが、番組のパーソナリティーである30代のキニマンス塚本ニキさんと63歳の社会学者の対話には、時代の流れを深々と感じさせるものがあった。
若い人は知らないと思うが、今の40歳以上であれば、宮台氏の名前を避けて通ることは不可能だっただろう。それほど、1990年代の宮台氏は時の人だった。“援助交際のフィールドワーク”で一世を風靡した社会学者であり、彼によって“援助交際”とは、“女の子が主体的にセックスを売る新しい現象”として“知的”に語られていたのだった。
今にして思えば、それはあまりに牧歌的で男性に都合のよい言論だっただろう。“少女買春”を“エンコー”と名づけることで免罪される男性の問題が語られるようになったのは、ここ数年のことでもある。「売ったんじゃない、買われたのだ」という当事者女性たちの告発によって、90年代がすさまじい勢いで過去になりつつあるのを実感する今日この頃だ。
そんな宮台氏がセックス(宮台氏によれば「性愛」である)について語るのを久しぶりに聴いた。興味深かったのは、それが宮台氏の一方的な語りではなく、30代の女性がパーソナリティーに入ったことで、「今の時代」がクッキリと浮かび上がる内容になっていたことだ。セックスが主な娯楽だと信じられてきた世代の男性と、セックスから解放された世代の女性の会話になっていたのだ。