ウクライナ侵攻を強行したロシアに対して、岸田文雄首相が強硬姿勢を崩さない。背景には核問題への怒りがあるが、同時に安倍晋三元首相との関係にも気を揉む。AERA 2022年5月2-9日合併号の記事から紹介する。
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岸田文雄政権の首相官邸には歴代内閣にはない特徴がある。中央省庁の事務次官(級)経験者が4人もそろっているのだ。首相の首席秘書官・嶋田隆氏(元経済産業事務次官)、国家安全保障局長の秋葉剛男氏(前外務事務次官)、官房副長官(事務)の栗生俊一氏(元警察庁長官)、そして首相補佐官の森昌文氏(元国土交通事務次官)である。
この布陣には、新型コロナウイルス対策に霞が関の総力を挙げて取り組むという岸田首相の狙いが込められていた。そして2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した緊急事態に対しても、岸田政権は「4次官OB」の態勢で臨んでいる。実務能力にたけた官僚主導の態勢で経済制裁などを素早く決めた。
ただ、この歴史の転換点で、政治指導者には安全保障の具体策だけでなく、理念・哲学を明確に示すという官僚の域を超えた力量が問われている。
核問題に「許せない」
当初、岸田政権の動きは素早かった。秋葉氏は米ホワイトハウスと直接、連絡を取り、バイデン大統領との電話会談などを設定。嶋田氏は財務省や金融庁をせっついて経済制裁を次々と決めていった。ウクライナへの防弾チョッキの供与なども打ち出した。プーチン大統領らの資産凍結などは、従来なら決定までに手間取っただろうが、今回は官邸主導で素早く対応した。
ウクライナからの避難民受け入れは、栗生氏らが法務省との調整を進めて実現にこぎつけた。古川禎久法相を首相特使としてポーランドに派遣し、来日を希望する避難民を政府専用機で連れて帰国するというアイデアは森氏らがひねり出した。だが古川氏が新型コロナの陽性となったため、代わりに林芳正外相がポーランドを訪問。避難民の実情を視察し、ウクライナのクレバ外相との会談も実現するという成果も生まれた。
岸田首相は「ハト派・リベラル」の宏池会出身だが、安倍晋三政権で5年近く外相を務めた経験もあって、「ひ弱なハト派ではないリアリズム外交」を掲げてきた。ロシアによるウクライナ侵攻に対しては、「力による現状変更であり、許すことはできない」と厳しく非難した。プーチン大統領が、ウクライナに対する核兵器の使用も示唆したことに対しては「断じて許容できない」と強く反応した。