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 ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、思わぬ論争が日本で巻き起こりました。「千羽鶴論争」です。ある団体が、ウクライナのために千羽鶴を折ったことについて、2ちゃんねる創設者のひろゆき氏とメンタリストのDaiGo氏が「無駄な行為」、「そんな暇あるならバイトをして送金して」というツイートを発信しました。堀江貴文氏も、YouTubeで「善意押し付け」と発信し、キングコングの西野亮廣氏も、阪神淡路大震災で千羽鶴の処理に困った体験から、千羽鶴を送る行為を批判しました。

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 このような影響力のあるインフルエンサーの発信を受けて、ネット上では騒動に発展しました。確かに、震災が起きた際に、支援物資ではなく千羽鶴が送られたことで、処理や撤去に困ったということがあるのだと思います。千羽鶴自体は、紙を鶴の形に折ったもので、戦争に苦しむ人々や被災した方々の直接的な支援にはなりません。食料や日用品や、金銭的な援助や安全を確保することの方が、折り紙を鶴の形にしたものを大量に送られることよりも早急に求められていることかもしれません。

 しかしながら、今回の騒動は、情報が切り取られて発信されることの恐ろしさや、インフルエンサーの影響力や品性について問われる問題でもあるのです。前提として、折り鶴を制作していた方々は、障害者就労移行支援施設の利用者であり、バイトをして金銭的な支援をするのが難しい立場の方々であったこと。そして千羽鶴の送り先はウクライナではなく、日本国内にあるウクライナ大使館であることです。

 つまり、実際に戦禍にあるウクライナの人々の元に大量の折り鶴が届いて、処理に困ったりする事態は起こらないのです。これらの前提情報が欠けた状態で、切り抜かれた情報が一人歩きし、意見や議論や拡散されているのが、今回の千羽鶴論争の一番の問題です。

 YouTubeでは、「切り抜き動画」と呼ばれるジャンルが人気です。様々なニュースやコンテンツについて、重要なポイントだけを「切り抜き」して、短い動画にまとめたものです。本や映画や漫画などの要約と同じで、要点だけ知りたい人々に絶大な人気となっています。情報が多すぎる現代では、すべての情報を受け取る時間的余裕がない人々も多いのです。「切り抜き」というジャンルは時代にマッチしたコンテンツといえます。前述のひろゆき氏も、YouTubeでは彼の言動の要点をまとめた切り抜き動画で人気を集めています。

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