「例えば『いつもお茶に虫が入っているひどい店』『店中が虫だらけの店』などと書いた場合です。1匹の虫がいたという事実に対し、『いつも』『店中が虫だらけ』という表現は虚偽に当たるため、偽計業務妨害や名誉毀損罪に問われる可能性が出てきます」(黒嵜弁護士)
虚偽の場合、損害賠償を求めて民事訴訟をすることも可能だが、黒嵜弁護士はこう話す。
「弁護士としては、虚偽の書き込みには徹底的に法的な対応をすべきだと考えます。一方で、飲食店経営者としては、訴訟にかかる時間や費用を考えた場合、そうするメリットが本当にあるのかどうか。店の営業への影響や必要なコストなどを検討し、冷静な見極めが必要となるのが現実です」
過去にはある人気ラーメン店で、自家製スープを使っているにもかかわらず「業務用スープだ」などと客にSNSに投稿されたため、店が損害賠償を求めて提訴したこともあった。裁判では名誉毀損が認められたが、賠償額は11万円だった。
「その投稿によってどれだけの損失が出たのか、正確に算定することは非常に難しい。日本では、店や個人の名誉をおとしめたことに対する賠償や慰謝料が低すぎる現実があります。事実と反することを書かれたとしても、店側は泣き寝入りせざるを得ないのです」(黒嵜弁護士)
黒嵜弁護士は、店内に防犯カメラを設置し、店員の作業を記録しておくのも一案だとする。クレームが入った場合、ミスがあったかどうかの事実が確認しやすく、裁判の証拠となる可能性もあるためだ。SNSなどを利用した独自の「反論」については、たとえ内容が正しかったとしても、逆に炎上してしまう可能性があることから控えた方がいい場合も多いという。
「店側もSNSを活用して集客を図る時代ですから、ある程度のマイナスな書き込みは許容しなければいけないと感じています。マイナス面を指摘されることで、業務改善につなげられる可能性もあります。とはいえ、店側の立場が弱いのは事実。虚偽や個人が特定されるような中傷的な書き込みについて、店側の削除要求が通りやすい仕組みを作るなど、制度を議論していく必要があると思います」(黒嵜弁護士)
自分の仕事のミスが、いつのまにかネットにさらされる時代。本当に投稿が必要か、内容はすべて事実か。書き込む側も、アップする前に冷静に考えた方が良さそうだ。(AERAdot.編集部・國府田英之)