■同じ手術室内で手術しているような感覚
また、通信の安定性も重要な課題だ。インターネットで映画などを見ていると、途中で止まったり、速度が一定でなくなったりすることがある。万一、遠隔手術中にそのようなことが起きたら、大変なことになる。
「通信の安定性を得るためには、現在使われている商用回線では不十分と判断し、専用回線を契約して臨みました」(宇山医師)
そしておこなわれた実証実験だが、課題であった遅延は0.026秒まで短縮され、手技には影響がなく手術は終了、満足できる結果だったという。
「感覚的にも同じ手術室内で手術しているのとまったく変わりませんでした。サージョンコックピットから顔を上げるたびに、離れた場所だったと思い直すような状況でした」(同)
藤田医科大学のほかにも、現在、いくつかの施設で遠隔ロボット手術の実証実験が進行中だ。日本外科学会は遠隔手術実施推進委員会を立ち上げた。
実用化への第一歩として、遠隔ロボット手術の概念、方法、施設や医師の資格、法的な取り決めなど、枠組みを定めるガイドラインの作成を進める。
■ガイドラインは22年度に、臨床試験は数年以内と期待
宇山医師は、今後について次のように話す。
「ガイドラインは2022年度中にまとまるのではないでしょうか。臨床試験も数年以内にできるのではないかと期待しています。臨床試験には患者さんの協力が不可欠ですから、理解を得られるよう、安全性、確実性をしっかりつきつめていきたいと考えています」
医師へのロボット手術の指導にも役立てられると宇山医師は言う。指導医が離れた場所にいても、実際の手術をサポートしながら進めることも可能になる。
遠隔ロボット手術が普及すれば、遠くの病院までロボット手術を受けに行く必要はなくなる。地域全体の医療水準の向上にもプラスになるだろう。期待して見守っていきたい。
(文/別所 文)
※週刊朝日ムック『いい病院2022』より