産学協同で研究開発された「遠隔ロボット手術」の実証実験が2021年5月、藤田医科大学で実施された。遠隔手術とはどのようなものか、実用化は可能なのか。好評発売中の週刊朝日ムック『いい病院2022』(朝日新聞出版)では、執刀医師の藤田医科大学の宇山一郎医師に詳しく話を聞いた。
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コロナ禍に、オンラインで受診できる「遠隔診療」が注目を集めるなか、遠隔医療の究極のかたちともいえる、「遠隔ロボット手術」の実証実験が、藤田医科大学(愛知県豊明市)でおこなわれた。
手術を担当する医師(術者)は、藤田医科大学岡崎医療センターの遠隔手術室で手術支援ロボットhinotori(ヒノトリ)を操作する。患者想定の臓器モデルが置かれた手術台は、藤田医科大学の研究・実証実験施設(MIL名古屋)のトレーニング施設にある。
この2地点は、直線距離にして約30キロ。専用の光高速回線でつないでの遠隔手術である。
実証実験に至るまでには、いくつか課題があった。
そもそもロボット手術は、遠隔でない場合でもデータ通信を用いておこなわれている。医師(術者)が操作する装置(サージョンコックピット)と数メートル離れた手術台で手技をおこなうロボットを、通信ケーブルでつないで手術する仕組みになっているのだ。遠隔手術は、ケーブルの長さが延びただけ、とイメージするとわかりやすい。
最も大きな課題は、離れていることで起こる、時間のズレ(遅延)だ。
例えば、テレビ番組で海外と中継を結ぶと、音声や画像が遅れることがある。手術中にこの遅れが生じると、安全な手術は不可能になる。実証実験で手術をおこなった藤田医科大学の宇山一朗医師はこう話す。
「まず、遅延を体験する実験を実施しました。0.3秒遅れでは通常の正しい手術はまったくできないことがわかりました。0.1秒まで縮めるとなんとかできる。安全のために0.05秒の遅延ならOKとしました」