「『戦勝70周年』の15年以外は、戦勝記念日での大統領演説でロシア以外の国々に言及することが減り、他国に対する批判的な内容が増えていきます。『欧州諸国は最初、ナチスドイツの危険性に気づかなかった』と言ってみたり、『この戦争の教訓を現在の世界はとらえきれていない』として米国の一極支配を牽制(けんせい)してみたり。そんな言葉が多くなりました」
そして昨年、プーチンの演説内容にさらに注目すべき変化が表れたという。
「『最も大変だった戦いのときに、我々は独りだった』という言葉を入れたんです。ウクライナで起きている現実に引きつけると、『ロシアはたとえ孤立しても、自分の正義を貫くんだ』という意味にとれる言葉遣いでした。いま侵攻をめぐって対立する国々と共通の戦勝記念日という位置づけでは、もはやなくなっていると思います」
民間人への容赦のなさ
ナチスドイツとの戦いでは、主な戦場の一つがウクライナ地域だった。当時と今回の侵攻では、民間人への容赦ない攻撃など類似点も見いだせる。
「大祖国戦争ではレニングラード(現サンクトペテルブルク)などソ連のいくつかの都市で、包囲して民間人もろとも飢えさせる『包囲戦』がドイツ軍によって行われました。戦勝記念日では苦い記憶として必ず語られます。逆に言えば、『戦争というのはそういうものだ』という意識ともつながります。それがウクライナ南東部のマリウポリ包囲にもつながっているかもしれません」
「プーチンは二つの戦争を『ナチズムとの戦い』という点でも重ね合わせています。『ナチズム』というものに込める意味が、プーチンの中でかなり変わってきているのだと思います」
00年代前半にプーチンがナチズムに似たものとして言及するのは、イスラム原理主義者などによる「国際テロ」だった。しかし、ウクライナでロシアとの関係を重視する政権が倒れた14年のマイダン革命では「起こしたのはネオナチである」とし、クリミアを併合。その後の政権を敵視する理由づけにした。
「最近では『ナチ』『ネオナチ』が全体主義的なイデオロギーとしてだけではなく、要は『ロシアに敵対するもの=ナチ』という位置づけになってきています。だから、ウクライナとの戦争はナチズムとの戦いである。ロシア嫌い(ルソフォビア)が増えているのは『ナチス的なもの』が力を持っているということである。そのため、ユダヤ系のゼレンスキー・ウクライナ大統領やイスラエルがネオナチを支持しているというおかしなことを、プーチン政権幹部が平気で言うのです」
(構成/編集部・小長光哲郎)
※AERA 2022年5月16日号から抜粋