今村:あるんですよ。たまたまこのあいだ、僕の同級生からメールが送られてきて知ったんですけど、その書店の店主さんが「かわいらしい姿を覚えています。直木賞おめでとうございます」みたいなことを書いて、書店に貼ってくれているらしいです。
林:ほんとですか! 感動的じゃないですか。
今村:そうですね。子どものとき、「オール讀物」に載っている直木賞の過去の選評も、好きで好きで読んでました。
林:そんなものも? 直木賞、ほんとに好きだったんですね。
今村:好きでしたね。前に候補になった『じんかん』も『童の神』も、ダメはダメやったですけど、「ここが足りない」とか選評で言われると、メッチャうれしかったです。「俺も直木賞に参加してる」っていう感じがして。
林:へーえ、そうなんですか。
今村:あかんかったときにメッチャ号泣する作家さんもいると聞いてますけど、僕は平気というか、そこはそことして切り替えてやれるほうなんで。
林:今村さん、受賞が決まったときは号泣してましたよね。
今村:ダメやったときこそ笑顔でいて、受賞が決まったときは泣けてきました。
林:あれを見て、本当にいい人だなと思っちゃった。
今村:僕も泣くつもりなかったんですけど、走馬灯のように、あ、それはちゃうな。走馬灯は死んだときやから(笑)。いろんなことがよみがえってきてうれしかったですね。憧れてた賞にたどり着いたというのは、ほんとにうれしかったです。正直、無理かもしれんと思ってたので、夢みたいでした。
林:ところで今村さん、ダンスインストラクターされてたって本当?
今村:やってました。
林:ソーシャルダンスですか。
今村:社交ダンスまでいかないですけど、いろいろです。ヒップホップ、ブレークダンス、主婦層に向けてのジャズダンスとかも教えてました。
林:失礼ですけど、そのときはもっとやせてた?(笑)
今村:やせてましたね。けど、ブレークダンスとかするために鍛えないといけないので、ベンチプレス120キロとかあげれましたよ。いまでも100キロぐらいならあがるかなという感じで、作家の中では物理的なパワーはあるほうやと思います。
林:夢を持つことの大切さをダンスの生徒に語っていたら、生徒に「先生こそ、夢あきらめてる」って言われたんでしょう?
今村:僕、泣きそうになりましたね。ダンスやってる子って、ヤンキーっぽい子が多くて、その子もギャルっぽい感じの子だったんですが、バンッて言われたんですね。
林:今回、その子たちから「先生おめでとう!」って感じですか。
今村:直木賞の日にはメチャクチャいっぱいSNSとかメールとかをいただいて、ほんとにうれしかったです。
(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)
※週刊朝日 2022年5月20日号より抜粋