林:今村さんのこの前候補になった『じんかん』も分厚かったですけど、『塞王の楯』も500ページを超える長編ですよね。私は一気に読めたから、全く長いとは思わなかったけど、若い人って厚みのある本に慣れてないのに、これ、若い人も読んでるんでしょう? ネットの時代と言われても、こういういい本はちゃんと若い人も読むってことがわかって、すごくうれしかった。

今村:それはほんとにうれしいですね。小中高校生ぐらいの子も、講演会とかに来て応援してくれるから、読みやすいことがとっかかりかなと。若者たちがそこからいろんなところに派生していってくれたらうれしいなと思いますね。

林:私、『塞王の楯』を読んで、穴太衆(あのうしゅう)というお城の石垣づくりのプロ集団がいるって初めて知りましたよ。戦の最中に石を切り出す人がいて、運ぶ人がいて、積み上げる人がいるって本当かなと思うんですけど。

今村:ウソではないんですけど、本当とも言えないラインで、史料の中にも2、3回しか出てこないんです。ただ、「大坂夏の陣」とか、けっこう重要な戦にも出てくる描写なので、それで大津のほうにも穴太衆がこもっていたという作品にしたんです。

林:お城の石垣って、きれいにきちんと積んであるものがよくて、ぐちゃぐちゃに積まれて、あいだに小さい石が詰まってるのは手を抜いてるんだと思ってましたが、この本を読んで初めてわかりました。一見手抜きと思うものは、実は非常に高度な技術なんですね。

今村:実はそっちのほうが難しいらしくて、外国の石積みの家は、きれいにカットされてるじゃないですか。外国の石は加工しやすいから加工技術が発達したんですけど、日本の石は硬すぎて、自然石をいかにそのまま組み上げるかという技術が発達したみたいなんですね。いまでも外国から習いに来る人がいるぐらいで、日本だけの技術らしいです。

林:私は、歴史小説を書くときは大学の先生方からレクチャーを受けるんですけど、それはやってるんですか。

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