渡辺:肺がん手術においてはさまざまな手術器具が発達し、手術の傷がどんどん小さくなっていきました。私が赴任する前は40センチくらいだった傷が今は5センチと、8分の1くらいまでになり、筋肉も骨も切らない方法が実現しています。
■手術はからだの負担が少ないだけでなく、根治性を保つことが重要
天野:からだへの負担が少ない手術は「鏡視下手術(内視鏡を腹や胸の中に入れ、モニターを見ながらおこなう)」から今は「ダヴィンチ(ロボット支援手術)」に移行してきていますね。
渡辺:はい。ただ、傷が小さい「低侵襲」というだけではなく、がんを完全に取り除く「根治性」も保たれなければいけません。当科ではこの根治性を維持しながらどこまで傷を小さくできるかということにこの20~30年の間、取り組んできました。
開業医の先生から紹介された多くの患者さんに、傷が小さいうえに、がんはしっかり治っている、ということを知ってもらった結果、さらに多くの方をご紹介いただけるようになりました。これが、手術数でトップを走り続けることができている理由だと思っています。天野先生はトップレベルを維持するために大切にしていることはありますか?
天野:今は20年前と違ってインターネットが普及していますので、患者さんは日本のどこに住んでいても、日本のトップではなく、世界のトップエンド(最高級)の診療レベルを求めます。
それに対してどうこたえていくか、チームとしてどう患者さんの要望を受け止めたらいいかは大きな問題で、さきほど渡辺先生がおっしゃいました低侵襲や入院の日数が少なくすむこと、治療の予後をよくするなど、患者さんに提供できるよりよい医療をみつけること。さらに現在はいろいろな臓器に問題があるハイリスクの患者さんには、ある部分にフォーカスした医療、超低侵襲などの医療で患者さんの日常生活を作り上げるようになってきています。
■「人の命は地球より重い」という言葉を常に自分の姿勢とする
渡辺:大きい病院では似た病状の患者さんが毎日のように、たくさん受診されますので、手術に関しても、言葉はよくないですが、流れ作業的に対応をしてしまうことがあると思います。
しかし、患者さん一人ひとりにとっては、一生に一回受けるかどうかの手術だということを忘れてはいけません。このため、若い医師には、「常に、真摯に患者さんの訴えに耳を傾けて診療をするように」と話しています。このように大きな病院にはメリットとデメリットがあると思いますが、天野先生はどうお考えですか?