天野:「よく学び、よく遊べ」という言葉がありますが、それは許されない。医学生は「よく学び、よく学び、しかない」という記事のくだりは「ずしん」と心に重く、響きました。
渡辺:「医師は一生勉強」という教えですよね。研修医にもよく話すのですが、患者さんはもちろん、その後ろにはその方を大切に思うご家族の存在があるわけです。しっかりと勉強をした上で、自信を持って治療をしなければならないという河崎先生の教えはごもっともだと思います。
天野:この記事はインターネットが普及していなかった頃のものですので、「医師の知識不足は許されない」という言葉も非常に重いですね。患者さんに治療法などを含め、あらゆる可能性について説明することの大切さを、私は河崎先生から教わったと思っています。
■より低侵襲な手術へ。この20年で手術の技術、安全性が大きく進歩
渡辺:ところで、「手術数でわかる いい病院」(朝日新聞出版)が創刊から今年で20年ということですが、医療の現場でこの20年、大きく変わったことはありますか?
天野:いろいろありますが、一番の変化は「医療安全」の考え方が普及したことです。ハイリスクの患者さんがトラブルなく、元気に健康になっていただくために費用をかけるべきだという考え方に変わりました。また、2005年あたりからはコンピューターの発達とともに、「EBM(エビデンス・ベースド・メディシン、科学的根拠に基づく医療)」が登場し、偏りのない情報共有が可能になりました。この現実をかみしめながら、エビデンスが薄い新しい医療も模索しなければならないという点で、けっこう難しい20年だった気がしています。
渡辺:天野先生はこの間に、「オフポンプ手術(人工心肺装置を使わず、心臓を動かしたままおこなう手術)」を始められていますね。
天野:はい。心臓を止めてバイパスを作る従来の手術(オンポンプ手術)は治療成績としては安定していました。それをあえて技術的にリスクを負う可能性のあるオフポンプ手術に変えたわけです。このため、リスクを克服すれば患者さんは従来の手術に比べ、多くの恩恵をうけられることを示す必要がありました。80歳以上の高齢の患者さんや腎機能が低下している患者さんに対して少しずつ実施し、実績を積み上げてきましたが、振り返るとやはり、なかなか重い20年でしたね。