監督自身、アジアを4年間旅したそうだ。ラストに本物のグロリアが現れてバス最前列に乗るシーンが出てくるが、曼荼羅絵図のように彼女が自分の分身たちに囲まれるイメージを持った。
もう一つ、映画には父の存在も。旅を愛し、「先のことは予測ができないから面白い」と言った父。母は犠牲になり心を病むが、父はそれでも旅を続けた。無責任でありながらも魅力的だった父。「人生は旅だ」が口癖の、楽観的ともいえる父の言葉に主人公も前を向き、既成権威をものともせず女性解放への道を突き進む。
「テイモア監督自身、『女性』ということで不当な扱いを受けたことはある?」と訊くと、「そういう時には目隠しをして、ただやりたいことをやり続けたわ。ワクワクするゴールがあれば負けてはいられない。自分は何をしたいのかを見据えて生きてきた。同じような考えを持つ人と仲間になり、手を組むことが何より大切なのではないかな」
監督のジュリー・テイモアは、インタビューの最後にタフだと思う日本人女性を挙げた。それは、石岡瑛子(アートディレクター)、ワダエミ(衣装デザイナー)、そしてレイコ・クルック(特殊メイクアップ・アーティスト)の3人だった。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年5月27日号