予防接種法は、予防接種業務を担う自治体には接種対象者に接種を呼びかける「接種勧奨」をするよう求めている。一方、接種対象者や、対象者が子どもの場合はその保護者に、できる限り接種を受けるようにする「努力義務」を課している。新型コロナウイルスワクチンの最初の2回の接種と3回目の追加接種は、12歳以上の全員に努力義務が課されている。
一方、4回目接種は60歳以上には全員に努力義務が課されているが、60歳未満の基礎疾患がある人については課されておらず、自治体の接種勧奨のみが課されている。
「わかりにくい状況になっているのは、4回目接種の効果について科学的な根拠が限られているからです。3回打てば、多くの人は重症化を防ぐのに必要な免疫が獲得でき、ある程度の期間持続します。それに対し、副反応を考えると、3回目の接種までとは異なり、広くあまねく接種を推奨する、ということにはなりませんでした」
■1回は追加接種を
厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の分科会長代理を務める中野貴司・川崎医科大学教授(小児科)はこう説明する。
日本は3回目接種のスタートは欧米より遅かったが、接種率は欧米の一部の国を超えつつある。首相官邸によると、5月19日現在、国民の約57%、うち65歳以上の人は約89%が3回目接種を終えている。
欧米では4回目接種よりも確実に最低1回の追加接種を打つよう呼びかけることに力を入れている。加えて秋以降には、再びワクチンを打つ必要が出てくる可能性を視野に入れ、検討が始まりつつある。
欧州医薬品庁と欧州疾病対策センターは4月6日、4回目接種に関する声明で、新型コロナウイルス感染症のような呼吸器感染症を起こすウイルスは冬に流行しやすいことを踏まえ、秋以降のワクチン接種についてこう述べた。
「今後、(すでに接種した)ワクチンの重症化予防効果がどれだけ低下し、新規感染者がどれだけ増えるのかによるものの、秋から冬にかけて、高齢者に限らずあらゆる年代の人に追加接種をする必要性が出てくる可能性がある」
米国や英国でも、政府の諮問機関などが秋以降にさらなる追加接種が必要になる可能性があると言及しており、政府内で検討が始まっている。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
※AERA 2022年5月30日号