全日本柔道連盟は3月、「行き過ぎた勝利至上主義が散見される」として、小学生の全国大会廃止を発表した。判定を不服として保護者や指導者が審判に罵声を浴びせたり、児童に減量を強要したりするケースが相次いでいたという。
報道されている熊本県の秀岳館高校男子サッカー部のコーチによる暴力も、行き過ぎた勝利至上主義の結果と言えるだろう。
■自己肯定感が低下へ
ラグビー元日本代表で神戸親和女子大学教授の平尾剛さん(スポーツ教育学)は言う。
「アマチュアスポーツの本質は勝利そのものではなく、勝利を目指す過程で何かを身につけたり、一生懸命取り組むことでプロセスが充実したりすることでしょう。しかし、勝つことを最も価値があるとみなし、それ以外をすべて従属させるかのような短絡思考が若年層のスポーツ現場でもしばしばみられます」
勝利至上主義はケガ以外にもさまざまな問題があるという。
「コーチが求めるようにできないと自信を無くし、自己肯定感の低下につながります。さらに、選手としての将来も開けません。小学生年代なら、細かな戦術を徹底すれば結果が出ます。野球ならとにかくゴロを打って、出塁したら盗塁を繰り返せばいい。でも、それでは個々の基礎能力や技術が伸びず、上のレベルでは通用しません」(平尾教授)
保護者や指導者が過熱する例も少なくない。平尾教授は言う。
「保護者がわが子の試合結果ばかりに一喜一憂してしまう。指導者にとっても教え子が結果を出すのは栄誉ですから、親の熱と反響してやり過ぎます」
(編集部・川口穣)
※AERA 2022年5月30日号より抜粋