練習後にグッドフェローズの選手とミーティングする甲賀英敏さん。一日を振り返り、楽しかったかと問う瞬間はいつも緊張するという(写真:甲賀英敏さん提供)
練習後にグッドフェローズの選手とミーティングする甲賀英敏さん。一日を振り返り、楽しかったかと問う瞬間はいつも緊張するという(写真:甲賀英敏さん提供)
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 秀岳館高校サッカー部の暴力問題は、今も勝利至上主義が残る実態を露呈した。スポーツする子どもを守るにはどうすればいいのか。AERA 2022年5月30日号の記事を紹介する。

【写真】暴力問題で謝罪する秀岳館高校の関係者

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 今年4月、静岡県掛川市で一風変わった学童野球チームが始動した。練習は週2回で、他競技との掛け持ちも推奨。練習の3分の1は基礎体力、運動能力を高めるフィジカルトレーニングにあてる。何より、大半のチームが加盟する全日本軟式野球連盟に加わらず、公式戦に出場しない。このチーム「グッドフェローズ」の創設者で、ヘッドコーチの甲賀英敏さんは言う。

「運動の基礎となる体づくり・障害予防・野球の技術の三位一体で取り組む、『育成』に重きを置いたチームです」

 理学療法士でもある甲賀さんは、静岡県高校野球連盟のメディカルサポート代表を務める。19年にわたる活動で、ケガで満足にプレーできない選手を多く見た。多いのは小・中学校時代のケガの再発だ。試合数の多い学童野球では、年間100試合超をこなすチームもある。

「高校野球では障害予防の意識の高まりや球数制限の導入などもあり、10年前と比べればケガや痛みを我慢しながらプレーする選手は減っています。それでも、小・中学校時代に肩や肘(ひじ)を酷使して故障し、高校で再発してしまう選手は少なくありません。勝つためにエースにずっと投げさせるチームはまだまだあって、未熟な体に無理をさせてしまうことがケガにつながります」(甲賀さん)

■細かな戦術は教えない

 グッドフェローズではストレングスアンドコンディショニングコーチがフィジカルトレーニングを担当するほか、甲賀さんら障害予防のプロが身体のチェックや予防エクササイズを担い、専門医による肘や肩の検診も定期的に実施する計画だ。一方で、細かな野球の戦術は中学生以降で身につければいいという。甲賀さんはこう断言する。

「学童野球での活躍と、その後の野球人生の充実は比例しません。目先の勝利至上主義から脱却し、高校以降を見据えて万全の状態で子どもたちを送り出したいと思っています」

 甲賀さんもキーワードに挙げる「勝利至上主義」。文字通り勝ちを至高のものとする風潮が近年、若年層のスポーツ現場で大きな問題になっている。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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