AERA 2022年5月30日号より
AERA 2022年5月30日号より

──佐久間流仕事術の特徴は、徹底して“戦わない”ことだ。相手に勝つ方法ではなく、ストレスなく自分の仕事ができる環境を確保するためにどうすべきかを常に考える。それは、社会人1年目の時に抱いた、ある強烈な違和感からきているのだという。

佐久間:今とは違って、僕が入社した2000年代のテレビ業界ってめちゃくちゃハードだったんです。毎晩のように明け方まで先輩に飲みに連れ回されたり、理不尽な指示に対してちょっとでも疑問を口にすると大声で怒鳴られたり。当時のテレビ業界に必要だったのは、マッチョな世界でもやっていける従順な兵隊でした。

 そんな状況だったので、「嫌われてもいいから自分で自分の心を守ろう」というのが僕の仕事術の原点です。

 会社にとって都合がいいだけの存在にはならず、作戦を立てて“ずるく”働く。仕事に対する向き合い方を根本的に変えました。

■とにかく楽しそうに

──佐久間さんがまず実践したのは「とにかく楽しそうに働く」ということだった。とくに26歳の時に初めて深夜番組の総合演出を任された際は、周囲に向けて意識的にアピールした。

佐久間:楽しそうにしていると、周りの上司に「こいつはやりたい仕事をやらせると、こんなに輝くんだな」と思ってもらえて、どんどん仕事を任せてもらえるようになるんです。なぜなら、「自分はこの仕事がやりたかった」という意思表示になるし、機会をくれた上司に対して「この仕事をさせてくれてありがとう」と感謝を伝えることにもなるからです。

 逆に言い訳ばかりしたり、つまらなさそうにしたりすると、次の仕事がなかなか回ってこなくなる。不機嫌でいるメリットなんて一つもないんです。

■キレる理由の8割は

──仕事が増え、人間関係も広がっていく中で、いつも肝に銘じてきたのは「相手のメンツを潰さない」。誰とも戦わずにいるためには、“敵”を作らないことが大事だからだ。

佐久間:組織で働くうえで忘れてはいけないのは、人はメンツで動いているということ。相手を軽んじていると思われないよう、あらゆる局面で“メンツ地雷”だけは踏まないように動かないといけない。

 具体的に言えば、細かいことほどきちんと伝えておくことです。人がキレる理由の8割くらいは「そんなこと聞いてない!」なので。

 どんなに自分を嫌う上司や同僚がいても、相手のメンツを立てさえすれば、自分を攻撃してくるリスクは低くなる。そうやって社内を注意深く歩いてきたからこそ、僕はテレビ東京を円満退社することができたんだと思います(笑)。

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