日本の医師の長時間労働については広く知られるところであり、働き方を見直す動きも活発化している。
「各国の産婦人科医の勤務実態を見れば、日本の医師の勤務環境が、イギリスやドイツ、アメリカなどと比べて著しく悪いことがわかります。こうした状況を分析し、解決策を探るのも、医療経済学の一つの役割です」
国際的な比較からは、日本では安い個人負担額で高レベルの医療が受けられることがわかる。しかしながら、年々膨れ上がる医療費、国民皆保険制度の存続危機、医師の過酷な労働環境など課題が山積しており、今後こうした医療体制が維持できるのかという不安を抱えている。
「医療制度の面では、今後は医療に透明性がますます求められるようになるので、治療の標準化が進むでしょう。患者さん一人ひとりの病態に合わせて最適な医療を提供したいと考える医師にとっては、クリエーティブな要素が減るので、厳しい時代になるかもしれません。また、勤務医の収入も、おそらく減っていくことでしょう。ただし、これは日本全体が置かれている厳しい経済状況によるもので、ほかの職種と比べれば収入は決して悪くないと思います」
厳しい状況に悲観的になりがちだが、医療経済学の立場からみると、医療界には可能性も広がっているという。
「医療分野だけを見ていると課題は多いものの、幅広くヘルスケア分野を見れば、健康を自己管理する時代になりつつあり、市場は間違いなく広がっています。わかりやすい例がアップルウォッチで、腕時計で心拍数や心電図がわかり、酸素飽和度も測れます。将来的には血糖値なども計測できるようになるでしょう。こうした医療分野が日常に進出することで、医師の働く場は広がっていくと考えています。また社会的にも、企業もSDGs(持続可能な開発目標)の観点から環境や健康を考えなくてはいけない時代になっています。こうした面からも、医療界や医師に求められるものも変化していくと思います」