具体例として、「コロナ対応の病院勤めと知られると避けられる」「町内の集金で汚いものを扱うように集金袋を投げつけられる」「子どもが通う学校でコロナ陽性者が出たら『お前の親のせいだ』と言われた」という事例もあった。看護系4年制大学の長岡崇徳(すとく)大学(新潟県長岡市)の山崎達枝准教授(災害看護学・国際看護学)は言う。

「かつてエイズウイルス(HIV)がそうだったように、コロナも最初は未知のウイルスに対する不安から、『コロナは皆に感染する』といった過剰なニュースが広がり、医療従事者への差別や偏見、誹謗(ひぼう)中傷につながっていったと思います」

 差別や偏見は医療従事者を萎縮させ、本来の看護をできなくする。今も多くの医療従事者が使命感を持って働くなか、この人たちをどう守るかが問われるという。山崎准教授は訴える。

「災害の現場でもそうですが、差別や偏見を受けても辞める医療従事者が少ないのは、ねぎらいの言葉、感謝の言葉があるから。『外傷後成長』といって、つらいことを経験した人はより人として成長することができます。そのために必要なのは、気持ちを吐露できる場所があり、自分を肯定してくれる人、認めてくれる人がいることです。医療従事者も同じ。気持ちを吐露できる職場環境づくりと、『ありがとう』の感謝と励ましの声が重要です」

(編集部・野村昌二)

AERA 2022年5月30日号より抜粋

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