それで2015年に立ち上げたのが「没イチ会」。死別の悲しみやつらさを死別体験者同士で分かち合いをする遺族会などの会合はありますが、その段階から脱した人たちが情報交換できる場がなかったから作ろうと。没イチ会には、「死んだ配偶者の分も、2倍楽しむ使命を帯びた人の会」というテーマを掲げました。没イチは「人生を楽しんでいい」のではなく、「人生を楽しめなかった配偶者の分も人生を謳歌しなくては」という発想です。つらい時期にどうしても前を向けない人もいる。そこで「誰かのために生きる」という価値転換をすることで、生きる意味や意欲が出てくると思っています。

 配偶者の死後、「死ぬのが怖くなくなった」という人は多い。私も夫の死後、何も怖いものがなくなりました。「そのうち」や「いつか」があるとは限らないことを、夫の死が教えてくれた。それを教訓に、没イチになって8年、50歳を機に勤めていた会社を辞めて、カンボジアで若者の支援活動をしたり、毎朝地域のごみ拾いをしたりと、人生を謳歌しています。亡くした配偶者の分も2倍、人生を謳歌しないといけないと思うと、過去を振り返っている場合じゃないと思います。

(構成/フリーランス記者・松岡かすみ)

週刊朝日  2022年6月3日号

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