ウォレス英国防相は4月25日、下院でロシア軍の戦死は1万5千人との推計を述べた。負傷兵は普通、死者の2倍ほどだから死傷者は約4万5千人。ロシア軍と分離派民兵19万人のうち24%の兵力を失った計算になる。
ロシア軍は人的損害を少なくするため地上戦をなるべく避け、ミサイル攻撃で相手の戦力低下を図ろうとするが、誘導装置の部品の一部は輸入しているため、精密誘導ミサイルの補充は難しいのでは、との説もある。他方これまで防御戦闘を主としたウクライナ軍は5月初めから反攻に転じ、キーウ近郊やロシア国境に近い第2の都市ハルキウ付近で被占領地の奪還作戦を始めた。ロシア軍には退却の動きが見え、敗色が濃い。
もしロシアが現在の支配地域を確保できても、優勢のウクライナが領土の割譲を認めて停戦する可能性は低く戦争は長期化するだろう。万一ロシアがウクライナ全土を制圧できてもウクライナ兵は隣国に逃れ、その一部は難民キャンプを拠点にウクライナに出没しゲリラ活動を続け、ロシアは莫大(ばくだい)な戦費を投じて戦い続けなければならない。国内総生産(GDP)では韓国に次ぎ世界の11位であるロシアは今回の戦争で勝っても負けても没落し、近い将来再び近隣諸国に侵攻する悪行を繰り返す余力も戦意も持たないのではないかと思われる。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)
※AERA 2022年5月30日号より抜粋