AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。渡辺明名人、森内俊之九段(十八世名人資格者)、「初代女流名人」の蛸島彰子女流六段らに続く15人目は、「日本将棋連盟棋士会長」の中村修九段です。発売中のAERA 2022年6月6日号に掲載したインタビューのテーマは「印象に残る対局」。
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「受ける青春」「不思議流」
それは1986年、23歳の中村修が史上最年少で王将位に就いた頃のキャッチフレーズだ。新進気鋭の中村は独自の感覚の受け将棋でタイトルを獲得。一躍スターとなった。
「中原先生(誠十六世名人、74)、米長先生(邦雄永世棋聖、故人)、加藤先生(一二三九段、82)。先輩棋士はみんな強かった。ただ少し前(83年)に、同い年の谷川さん(浩司十七世名人、60)が名人になっていた。自分たちの世代もやれるという意識はありました」
時を経て2022年。現代の若きスーパースター藤井聡太が19歳で史上最年少五冠を達成。その過程において最年少王将の中村も脚光を浴びた。
「その記録は自分自身ずっと知らなくて、意識することもありませんでした」
くしくも、というべきか。藤井が王将位を獲得して中村の記録を更新した一局で、中村は立会人を務めていた。
「いまはタイトル戦の前日には、対局者の荷物をチェックします。携帯とかあったらまずいんでね。それでトップ棋士の人たちは、鞄の中とかすごく整理されている。彼らの頭の中も一緒だと思うんです。同じ情報量を持ってても、トップ棋士のように整理されてないと、必要な情報がポンポンと出せない。そういうタイプは伸びてくると思いました。昔は本当に、ただ将棋が強いだけというか、あまり他のことはできないっていう人は結構いましたよ。私もそういうタイプですけど(笑)。いまは藤井さんみたいに、他の世界に行っても通用するような人でないと、トップでやっていくのは大変なのかなと思います」
順位戦のB級2組は実力者が揃う厳しいクラスだ。21年、中村はそこで昇竜の勢いの藤井と対戦した。
「それまでに藤井さんとは早指しの棋戦で1局指していました。負けましたが、ちょっとこちらが優勢になって手応えはあったんです。ところが順位戦で(長い持ち時間の)6時間で指して、まあしんどかった。本当に全て読まれてる。こっちが考えてない手まで、あちらが心配して考えてくれる。一緒に長い時間、盤をはさんでみると、藤井さんがいかにたくさん読んでるか、よくわかる気がしました。感想戦(対局後の検討)でも読み筋を披露され『こう指されたら苦しいな』と思ってるところの、さらにその先のキツい手を指してくるわけです」
(構成/ライター・松本博文)
※発売中のAERA2022年6月6日号では、中村修九段が11月に誕生日を迎える60歳という年齢や、藤井聡太五冠の八冠の可能性についても語っています。