この翌年に4軒、また3軒と減っていき、現在は自分の師匠のみ。うかがわなくなった師匠方は「あいつ、今年から来なくなりやがった……」とお思いでしょうか。べつに感謝の気持ちが無くなったわけじゃありません。お麩以外思いつかない自分の情けなさに断を下したといいますか……。
去年、二つ目に昇進した弟子に「何軒くらい御中元に回ってる?」と聞くと「師匠と大師匠だけです」。自分のことは棚に上げ「若いのに少ないなぁ」と言うと「コロナで回らないほうがいい、みたいな空気が若手にありまして。配送も気が引けますし」。なるほどね。コロナ禍にも新しい二つ目さんが増えました。コロナが落ち着いたら、また以前のような御中元の慣習は戻ってくるでしょうか。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!
※週刊朝日 2022年6月10日号