元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 最近何が驚いたって、屋外でのマスク着用は、距離が確保できて会話がない状況(自転車に乗っている時、人の少ない外を歩いている時など)では不要と国が発表したことである。

 えーっ! ってことは、これまでは必要だったの? いや私、ずっとそうしてきたんですが。だって換気百パーの屋外で、人通りの少ない近所を自転車で黙々と漕いでいる時に、感染したりさせられたりとかありえんだろうと思っていたのだ。でもこんな発表があるってことは、それは世間では非常識だったのか。

 確かに、ちょっと気になってはいたのである。

 コロナ騒ぎが持ち上がった当初は「マスク警察」という言葉が生まれるほどマスク至上主義を皮肉る空気があったが、最近はそんな言葉があったことすら嘘のように一歩外に出ればいつでもどこでも全員マスク。唯一口元の見えていたチビッコたちも、急速にノーマスクの子を見つけることが困難になった。ゆえにマスクを外すことは次第に緊張感を伴う行為となった。それでも外ではマメにマスクを外していたのは、息苦しくて倒れたら本末転倒だし、納得できないのにムードに従うのが嫌だったからだ。きっとみんなもそうで、ただ着けたり外したりが面倒なだけだよね? と自分に言い聞かせていた。

山椒の苗を買ってベランダ栽培を始めたら、葉っぱが無限に増えるので何でも山椒風味に……(写真:本人提供)
山椒の苗を買ってベランダ栽培を始めたら、葉っぱが無限に増えるので何でも山椒風味に……(写真:本人提供)

 で、この度の発表である。よっしゃこれからは大手を振ってノーマスクで自転車に乗れるゾと喜ぶ気持ちにはとてもとてもなれない。そもそもマスク着用が義務化されていたわけじゃないのに、いつの間にかムードとして義務化されていたのかと思うと怖い。それに違和感を覚えている人間が少数派っぽいこともさらに怖い。

 常識とは、真実とは、正しさとは、一体何なのかがわからなくなることが増えている。その中を「真っ当に」生きていくためには何をどうしたらいいのかがまたわからない。なのでまずは書いてみた。同様の違和感を覚えてるどこかの誰かに「一人じゃない」と伝えたい。いやもしかして私一人だったりして……。

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2022年6月6日号