それなのに今、戦略的観点から経済を手段化する方向に動いていいのか。「相互依存の武器化」などという何とも陰惨で物騒な言葉まで、飛び出すようになっている。相手が我が国からの物資の供給に依存しているなら、そのことを恫喝(どうかつ)材料にして、相手から譲歩をもぎ取る。それが「相互依存の武器化」なのだという。なんとも悍(おぞ)ましい話だ。
「経済安全保障」という言葉を我々の会話の中から追放したい。つくづくそう思う。経済活動は人間の営みだ。経済活動は人間を幸せに出来なければならない。その状態を保つために全力を傾ける。そのことを「経済安全保障」というなら、まだいい。それでも、経済を軍事用語と結びつけることには抵抗がある。経済の円と安全保障の円は、やはり交わってはいけないのだと思う。
浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演
※AERA 2022年8月1日号