北海道岩見沢市で農業を営む30代の男性は、この政策について、こう批判する。
「豪雪地域で冬の間、家屋を放置するというのは、自分の家を手放すのとほぼ同じことで、多くの家屋や設備が倒壊する危険性があると思います。仮に政府が損害を補てんするなら、現在の除雪費のほうがはるかに安く済むのではないでしょうか。また農業のようにその場所が事業と密接に関わっている場合、離れるわけにはいきません」
青森県弘前市に住む40代の男性も「除雪しないと、豪雪の際に誰も見に行くこともできなくなるので、家屋が倒壊したり、空き巣に入られたりする危険が増します」と雪害や防犯面での問題を指摘をした上で、今回の政策案についてこうした感想を話す。
「人の暮らしを非常に無機質なものとして捉えているような印象。雪があることで成り立つ生活や、文化、そういったものを無価値なものと考えているのかな。田舎の人にとっての生活は家族と家、地域、文化があってのもので、冬だけ他で暮らすというのはちょっと違うな、と思います」
自治体はどう見るのか。豪雪地帯に指定されている同県むつ市の宮下宗一郎市長は、冬期集住について「やろうと思えば可能だが」と話し、こう問題点を指摘する。
「私たちがなぜ地方に暮らしているかというと、そこで生きること自体に価値を見いだしているからです。豊饒(ほうじょう)の大地や海に囲まれて、風を感じて、美しい景観の中で生きている。財政効率の観点からすれば山間部ではなく、都市部に暮らすのがいいのでしょうが、それは都市目線の話。この考えを推し進めると、雪国に住むことが非効率となってしまう。都市目線で改革案を出されても、そもそも地方暮らしの価値観とは相いれません」
さらに市長は、費用の効率化の面からも疑問を呈する。
「財務省の資料では、特別豪雪地帯がある地域とそれ以外の地域で1キロメートルあたりの道路維持費は10万円しか変わらない。その点を見ると、移住先の生活基盤を整えたり、家賃を補助したりすることで、費用が逆に高くなる可能性があります。むつ市では除雪費の8割が都市部でかかっており、都市部の除雪を自動運転にしたり、街中の居住エリアをコンパクトにして、除雪しない場所を増やしたりするといった施策のほうが、財政の効率化にはつながると思います」