前岩手県知事で分科会の会長代理を務める増田寛也氏
前岩手県知事で分科会の会長代理を務める増田寛也氏

 一方、前出の財務省の担当者は、今回の移住案についてこう説明する。

「『雪国に住む人はそこに住むな』という政策ではありません。これはあくまでも『住民が望む場合』の話です。雪国において、冬の間に中心地に住んでもらうことで『こっちに移り住んでもいいかな』という気持ちを持つ人が出てくることも考えられます。批判も出てくると思いますが、批判も含めて議論があったほうがいいと考えています」

 さらに、除雪費の削減以外の狙いもあるという。

「人口が減っていくなかで、コンパクトシティーなどについても徐々に進めていかなければならない課題です。道路だけではなく、下水道やガス管、電気など隅々にまで広がったインフラをどうするかという課題があります」

 今回の政策をまとめた分科会の会長代理の増田寛也氏は、この政策案のポイントは「生活全般の維持のため」と説明する。

「道路の維持コストをどれだけ節約するかという観点だけではなく、社会保障や医療のことを考えると、中山間部で雪深い地域に医者が往診に行くというのは難しい側面がある。住民が買い物に行くのも大変です。地域の実情は様々なので一律に、というわけにはいかないが、合意の取れた集落では、生活を維持するために、例えば12月から3月の間は平場に居住地を移すというのはあり得る。集落の規模も十数世帯など少ないところであれば、選択肢になると見ています」

 その一つの例として挙げるのが、岩手県西和賀町の事例だ。西和賀町では、高齢で生活に不安がある人を対象に、希望者が冬期に高齢者用の福祉施設で生活し、除雪の必要がなくなると自宅に戻るという取り組みをしている。

 町の担当者は「除雪費を節約するためではありませんが」と前置きした上で、こう話す。

「一人暮らしの高齢者は増えており、毎年20人程度の定員は埋まっています。業者が施設まで来るので買い物はしやすく、温泉もありますので、一人で自宅に過ごすのとは違います。家を離れている間の家の管理は所有者の責任で、ご家族や代わりの人に雪下ろしなどをしてもらうことになります」

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深刻化する地方消滅の危機