ロシアがウクライナに侵攻を始めて6月3日で100日となったが、いまだ膠着状態が続き、終結への道筋は見えてこない。プーチン大統領はロシアをどこに導こうとしているのか。『プーチンの実像 孤高の「皇帝」の知られざる真実』(朝日文庫)を共同執筆した朝日新聞論説委員の駒木明義氏に寄稿してもらった。
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ロシア外務省で5月16日、ラブロフ外相を議長とする少数の幹部による重要会議が開かれた。非公開の議論の内容を知る立場にある関係者の話によると、出された結論は、以下のようなものだったという。
「西側諸国は、ロシアに対して侵略的な方針を掲げている。事実上、全面的なハイブリッド戦争を布告したといえる。このため我々は、非友好国との関係の根本的な見直しに着手する。一方で、それ以外の国々との協力関係を強化せねばならない」
「ハイブリッド戦争」とは、正規軍による戦闘だけでなく、サイバー戦、情報戦、謀略など、さまざまな手段を組み合わせて敵国を攻撃する「戦争」のことだ。
これは近年のロシアが得意としてきた戦法だ。しかし、ロシア外務省は今回、自分のほうこそ西側からハイブリッド戦争をしかけられている被害者だと結論づけた。
関係見直しの対象となる「非友好国」は、ロシア政府が3月7日に発表したリストに掲載されている。ウクライナ侵攻を非難し、対ロシア制裁に踏み切った、日本を含む48の国と地域だ。
これまでもロシアは日本の対ロ制裁に対して、対抗措置を次々に発表してきた。日ロ平和条約交渉の打ち切り(3月21日)、日本外交官8人の国外追放(4月27日)、政治家、学者、メディア関係者ら63人のロシア入国の無期限禁止(5月4日)などだ。
しかし、今後検討される「関係の根本的見直し」は、こうした場当たり的な対応ではなく、政治、経済、人的交流など、より幅広い分野を対象とした包括的な内容になると見られる。
前出の関係者は「安倍政権と協力して作り上げてきた日ロ関係の前向きな実績を壊したのはロシアではなく、現在の日本政府だ」と指摘した上で「我々は物乞いではない。日本に制裁の解除をお願いするようなことはしない」と強調する。