1975年のデビュー以来、多くの人に愛されてきた山下達郎さん。「山下達郎好き」を公言する映画監督・細田守氏にその魅力を聞いた。AERA 2022年6月20日号の記事を紹介する。
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僕が初めて達郎さんを聴いたのは中学1年生のとき。テレビCMで流れていた「RIDE ON TIME」(80年発表)に、衝撃を受けました。凄まじいかっこよさで、それまで自分の周りで流れていたものとまったく違う価値を持つ音楽のように感じました。日本人が作っている音楽なのに、その枠にとどまらない。誰も「グローバル」なんて言葉を使っていない時代でしたが、達郎さんの曲は僕にとってまさにそういう音楽でした。
アニメーションの世界に入り、幸運なことに「サマーウォーズ」「未来のミライ」という二つの映画で達郎さんに主題歌をお願いすることができました。僕が作っている映画は、海外の方もたくさん観(み)てくださいます。世界中の人が観てくれる映画に主題歌をつけるとしたら、誰に歌ってもらうべきなのか。どこの国で暮らす人の心にも響いて、素晴らしいものだと理解してもらえる音楽とは何なのか。そう考えたとき、まっさきに思い浮かんだのが達郎さんでした。中学生のときに「RIDE ON TIME」を聴いて、「僕もこういうものを作る人になりたい」と憧れ続けてきたので、自分の映画の主題歌をいつか達郎さんにお願いするのは僕にとっては必然でした。
それにしても達郎さんのディスコグラフィーのなかに、自分が関係している曲が三つもあるなんて、夢のようなことですよね。そんな幸運な“ファン”は、世界中を見渡しても僕ぐらいじゃないでしょうか(笑)。
僕が達郎さんの音楽からいつも感じるのは、誠実さや公正さ、真摯(しんし)さといった類いのものです。ひいてはそれは達郎さんのルーツでもある、オールディーズや海外のポップミュージックへの最大限のリスペクトでもあるのでしょう。映画もポップミュージックも商業的に消費される、ある種の悲しい運命を背負っています。それでも、その素晴らしさに向き合い、体現して、僕らに届けてくれているのが達郎さんなんだと思います。