あらゆるタイプの「天才」に囲まれながら、炭治郎も玄弥も「己の戦い方」を確立していかねばならなかった。「刀鍛冶の里」の戦闘は、竈門兄妹と玄弥にとっても、大きな転換期となる出来事だった。

■「共闘」の経験を積まねばならない玄弥

 炭治郎は那田蜘蛛山(なたぐもやま)、無限列車、遊郭の戦いで、鬼の実力者・十二鬼月(じゅうにきづき)との戦闘経験を重ねていったが、ここまでのエピソードは、「かまぼこ隊」(炭治郎・善逸・伊之助)が「ともに強くなる」成長の物語であった。

 しかし、無限列車で炎柱・煉獄杏寿郎を失い、遊郭の戦いで音柱・宇髄天元が戦線離脱を余儀なくされ、新人剣士だった炭治郎たちもあらゆる状況に、それぞれが対処可能になる必要があった。個の実力の確立、そして他の隊士たちとの新しい連携のあり方が模索される。

 炭治郎の同期のうち、ここで新たに仲間同士の「共闘」のあり方を体験せねばならなかったキャラクターこそが、玄弥なのだ。

■玄弥と炭治郎

 他人との距離感が近く、すぐに人と仲良くなることができる炭治郎に対して、玄弥は「強くならねばならない」という焦りもあって、周囲と打ちとけることができない。玄弥は恋柱・甘露寺蜜璃に話しかけられても、満足に返事することもできなかった。「刀鍛冶の里」の温泉シーンでも、炭治郎は玄弥との会話を試みるが、「話しかけんじゃねぇ!!」と湯の中に沈められてしまう。

<知るかよ!!出てけお前 友だちみたいな顔して 喋ってんじゃねーよ!!>(不死川玄弥/12巻・第105話「なんか出た」)

 そんな玄弥に対して、炭治郎は「何であんなにずっと怒ってるんだろう」と疑問を口にするが、玄弥の怒った口調やいら立ちは、玄弥の「照れ屋」な性格だけに由来するわけではない。それには、彼の「戦いの秘密」と「出自」にまつわる特殊な事柄が関係していた。

■鬼と“戦わねばならない”理由

 炭治郎と玄弥には、ときおり自らの才能の不足を嘆く様子が見られる。しかし、そんな炭治郎と玄弥には、どうしても鬼と“戦わなくてはならない”理由があった。

<きっと禰豆子を人間に戻す 絶対に治します 探す!! 必ず方法を見つけるから 殺さないでくれ>(竈門炭治郎/1巻・第1話「残酷」)

<俺は柱になって 兄貴に 認められたかった そして“あの時”のことを 謝りたかった>(不死川玄弥/13巻・第114話「認められたかった」)

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実弥を「兄ちゃん」という呼ぶ理由