炭治郎は「妹」を救うために鬼と戦い、玄弥は「鬼が起こしたある事件」によって離ればなれになってしまった「兄」との再会のため、鬼殺隊に入隊した。玄弥の兄の名前は不死川実弥。鬼との戦闘の最前線にその身を置く風柱が、玄弥の兄だった。

■兄を追い求める玄弥の「幼い」言動

 原作のコミックスでは、急激な肉体的成長を遂げるまでの「幼い玄弥」の姿がところどころで描かれている。その表情は不安げで、孤独な様子が痛々しい。

<酷いこと言ってごめん 兄ちゃん>(不死川玄弥/13巻・第115話「柱に」)

<柱にならなきゃ 柱に会えないのに 頑張ったけど 無理だったよ なんでだよ!! 俺は兄ちゃんの弟なのに!!>(不死川玄弥/13巻・第115話「柱に」)

 なんとか強い鬼殺隊員であろうとし、大人ぶる玄弥であったが、彼が本心から兄に語りかける時は、幼い頃のままに実弥を「兄ちゃん」と呼ぶ。体は大きくなっても、玄弥の心は子どものままだ。

■兄だから戦う炭治郎・弟だから戦う玄弥

 『鬼滅の刃』は、妹の「幸せな生」を取り戻すために、炭治郎が死闘に身を置く物語である。兄だから、長男だから、妹を死なせたくない、そんなセリフに炭治郎の決意がにじむ。その一方で、不死川兄弟の弟・玄弥のまなざしは、物語の「最期」まで、一貫して「弟」として描かれ続ける。弟だから、兄ちゃんを守りたい、兄ちゃんを死なせたくない。

 玄弥の心は、あえて「大人になること」を拒む。玄弥が幸せだったのは、母と、死んだ弟妹たちと、そして兄・実弥と暮らしていた幼少期、あの瞬間なのだ。失ってしまった幸福な過去の思い出を守りながら、大人になることも、平和に生き続けることも、自分の肉体も、すべて捨てる覚悟で、鬼狩りとしての道を選ぶ。

■強くなった玄弥の活躍

『鬼滅の刃』は家父長制、「長兄」の役割を強く印象付ける物語ではあるが、「刀鍛冶の里」の戦いでは、兄が兄としての責務を果たそうとする決意と揺らぎが描かれ、同時に自分の兄を守ろうとする「年下のきょうだい」たちの願いも描かれる。ずっと実弥の弟でいたい玄弥は、幼い純粋な心のままに、自分の戦う心をふるい立たせる。

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玄弥がした苦渋の決断