三村さんは「北朝鮮は国民に新型コロナへの恐怖感を植え付けすぎた」と指摘する。「オミクロン株は感染力は強いが、死亡率は低いとされている。そろそろ感染者がゼロだという建前から脱却し、恐怖心を解く時期だと判断したのではないか」

 筆者の取材でも、こうした見方に沿った証言が相次ぐ。

 新型コロナの流入を恐れる北朝鮮は、中国で新型コロナが拡大した2020年1月下旬に国境を封鎖した。しかし、中国にいる北朝鮮の内情を知る複数の関係者によると、北朝鮮が感染者の存在を公表してから状況は変わった。オミクロン株は重症化の可能性が比較的低いという認識が、政権の上層部にも庶民にも浸透してきたというのだ。

 北朝鮮は連日、発熱者の人数を発表しながらも、5月下旬からは状況が「安定している」と強調。4月末から6月15日までの発熱者は累計で455万人を超えたが、一時は40万人に迫った1日ごとの新たな発熱者は2万人台まで減ったとしている。

■神経をとがらせる中国

 金総書記は6月8~10日に開かれた党中央委員会総会で、「国家防疫事業が重大な峠を越え、封鎖を基本とした防疫から、封鎖と撲滅闘争を並行させる新たな段階に入った」と述べた。封鎖一辺倒はやめ、人やモノの移動をある程度は許容するという宣言と受け取れる。

 この方針に沿うように、北朝鮮は中国に対し、4月下旬ごろに停止された両国間の貨物列車の定期的な運行を再開するよう要望している。防疫対策として列車の往来を止めるよりも、深刻な食料・物資不足の解消を優先するとの判断がある。

 厳格な「ゼロコロナ」政策を続けている中国は5年に1度の共産党大会を秋に控え、国境からの新型コロナ流入を防ごうと神経をとがらせており、列車の運行再開の時期は見通せない。(朝日新聞瀋陽支局長/金順姫)

AERA 2022年6月27日号