映画「ベイビー・ブローカー」は、24日からTOHOシネマズ
映画「ベイビー・ブローカー」は、24日からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開(c)2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

 韓国でも、多くの作品が、スタジオやグリーンバックでの撮影に切り替わっていた時期。

「そんな中で、ロードムービーを撮るのは、時代に逆行したやり方だったと思います。無事クランクアップできたことは、運が良かったとしか言いようがない」

 ソン・ガンホさんの存在感は言わずもがなだが、それまでの芝居に見られるような“えたいの知れない激しさ”は封印されている。「パラサイト 半地下の家族」以降、日本の40~50代の俳優に、「ソン・ガンホをイメージしたのでは?」と思わせる癖の強い役を演じさせる映画がいくつか公開されたが、この映画のソン・ガンホさんの演技はとても抑制されていて、見事に是枝監督のタッチに染まっていた。

「『日本にはソン・ガンホはいないけれど、勝新太郎と渥美清とフランキー堺を混ぜると、ソン・ガンホになるのではないか』と彼に話したことがあります(笑)。それに、今回は、ドンウォンさんとの対比も良かったと思う。赤ん坊を赤ちゃんポストに置き去りにする母を演じたイ・ジウンさんも、ブローカーを検挙するために彼らを尾行するペ・ドゥナさんも、引き算の芝居ができる人です。僕の場合、日本人のキャストも、必ずそれができる人を選んでいる。ソン・ガンホさんは、もちろんいろんなところで素晴らしいけれど、孤児院から釜山に移動する途中で、お巡りさんに車を止められて、『後ろのドア、開いてるよ』と指摘されるシーン。そのときの素早い動きには感動しました。パッと降りて、ドアを閉めて戻ってくるスピード感が素晴らしいんです」

 ほかにも良かったことはいろいろあった。

「クリーニング屋の屋上で、赤ん坊を抱きながら、洗濯物を干しているシーンがあるんですが、遠くからカメラで狙っていたら、ちょうど、物干し用のひもが、顔にかかってしまっていた。『ずらさないと』と思っていたら、指示される前に、自分で洗濯バサミの位置を動かしたんです。そうしたらちょうどひもも緩んで、顔にかからなくなった。撮影の後に、『あの判断は素晴らしかった』と褒めたら、一緒にお酒を飲むたびに、『監督は、イ・ジウンさんやペ・ドゥナさんはいろんなところを褒めるのに、僕の芝居で褒めたのは洗濯ひもの位置のことだった』と笑い話にしていました。現場のことを知らない人は、『たかが洗濯バサミ』って思うかもしれないけど、俳優が、そこで何を見せていくかを理解するのは大事なことなんです」

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