作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、舞妓さんの人権について。
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元舞妓さんのTwitterが話題になっている。
16歳で舞妓さんとしてお座敷に出たとき、大量の酒を飲まされ、客と一緒に風呂に入るように強いられたことなどを、当時の写真とともに公表したのだ。
観光地・京都の代名詞でもある舞妓さんは、芸妓さん(成人女性)になるための修業期間ともされ、15~20歳の女性たちが担うものとされている。でもそれって……もしかして児童労働じゃないの……? と、どこかで誰もが感じていたであろうぼんやりとした疑問が、くっきりと輪郭を持ったのだろう。その女性のツイートはたった数日間で約30万もの「いいね」がつけられ、さらにその声に呼応するように、「私も同じような被害にあった」「私の妹が被害にあった」「私の友だちも被害にあっていた」という声が次々にあがりはじめている。
舞妓さんは、長い間、私の疑問だった。なぜなら、あまりにも“陽”の存在として描かれすぎていたからだ。たとえばテレビなどで舞妓さんが報じられるとき、それはたいてい「伝統芸能を支える少女」「過酷な修業に耐え舞妓デビューした少女」というような、一人の少女が夢をかなえる成長物語として描かれがちである。
もちろん、舞妓さんを目指すのは女の子たちの意思だ。舞妓さんになる少女の多くは、その美しさに憧れ、伝統芸能への憧憬をもってこの世界に飛び込んでくる。京都から遠く離れた地域からやってくる子も少なくなく、彼女たちは置屋の女将を「おかあさん」と呼び、京言葉や、日常のしぐさなどを徹底的に仕込まれていく。とはいえ、そういう生活を乗り越えて舞妓さんになれても、給料は一切出ない。衣食住を置屋が全て賄ってはくれるのだが、それでも夜は、芸妓さんとともにお座敷に出て、客に酒をついだり、踊ったり、酒の席での遊びを客としたりなどの仕事をする……そんな厳しい日常を懸命に生きる少女たちの物語は、これまでも“隠されることなく”報じられてきた。