そこで問われるのは日米同盟強化の先を見据えた議論だ。
主な論点は三つ。第1にウクライナ危機は、国連がロシアの拒否権発動などによって機能不全に陥っている現実を見せつけた。代わってG7やNATOが民主主義諸国の連携の場となっている。NATOにはフィンランドとスウェーデンが加盟申請するなど影響力を拡大している。日本がこうした枠組みにどう協力するかが焦点だ。
日本は米国とともに「自由で開かれたインド太平洋構想」を進め、日米豪印の4カ国会合「クアッド」での連携も重ねてきた。中国に対抗する意味合いが強かったが、ウクライナ危機を受けて中ロに対抗する「アジア版NATO」をめざす動きが加速しそうだ。
政界再編の可能性も
第2に中国との向き合い方である。経済・貿易で中国に依存し、安全保障では米国との同盟関係を維持してきた日本の立ち位置は、欧米とは異なる。中国に市場原理や民主化の重要性を説きつつ、米国の対中強硬策にも同調するという選択は容易ではないが、日本にとっては避けられない道だ。与野党のリーダーには、そうした中長期の外交戦略を打ち出し、国民の理解を得るという作業が求められる。
第3に米国との関係である。冷戦後の30年間で、日米同盟の対象範囲は、両国間の安全保障の枠組みを超えて、アジア太平洋、さらにインド太平洋へと拡大してきた。ウクライナ危機と中国の台頭を踏まえて、日米同盟をさらに強化するなら、(1)どのような理念と長期戦略に基づくのか(2)そのうえで日本の防衛力整備をどう進めるか(3)財源はどう確保するか──といった本質的な議論が欠かせない。
憲法や非核三原則、専守防衛などの基本方針は見直すのかという議論も熱を帯びる。岸田首相はいずれも慎重姿勢だが、自民党内の対立が激しくなるのは間違いない。それは、与野党全体を巻き込んだ政界再編につながる可能性をはらんでいる。(政治ジャーナリスト・星浩)
※AERA 2022年7月4日号