「赤いスイートピー」「木綿のハンカチーフ」「硝子の少年」など、これまで数々のヒット曲を手がけた作詞家の松本隆さんが6月17日、母校・慶應義塾大学で「言葉の教室」と題するシンポジウムに臨んだ。松本さんにインタビューを重ね、同名の書籍を昨年まとめたTOKYO FMのラジオマン、延江浩さんが聴き手を務めた。延江さんがこのイベントを本誌連載「RADIO PA PA」のスペシャル版として詳報する。
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「夕陽を言葉にしてごらん。世界が一変するよ」
どこからか、今でも松本隆さんの声が聴こえてきそうだ。
『言葉の教室』という本をまとめるまで、どれだけ時間を作っていただいたことだろう。お会いするたびに新たな発見があり、取材ノートがみるみる厚くなっていった。
それはこの上ない喜びで、幸せな気分をあとがきに書いた。
「言葉の教室(レッスン)が進むごとにピアノのレッスンを受けていた幼少期を思い出した。上巻の赤いバイエルを抱えて通った日々。レッスンをこなし、下巻の黄色いバイエルに進んだときの誇らしさを味わった」
「言葉の教室」は書籍だけに留まることはなく、実際に学生が集まるリアルな「言葉の教室」になった。それも松本さんの母校、慶應義塾の後輩たちを前に。短い募集期間にもかかわらず、瞬く間に500人以上が集まり、ホールは締め切り満員御礼になった。
「松本隆さんが三田にくる!」
当日、学生音楽サークルの面々がざわざわしたが、松本さんはキャンパスの真ん中にある大銀杏を控室からのんびり見下ろし、「はっぴいえんどで三田祭に出たなぁ」とひとりごちた。「時間が押すトラブルで、あの銀杏を背にして一曲しか演奏しなかったけどね」
「まるで女の子みたいに綺麗な字だった」と、いつだったかユーミンが教えてくれたことがある。レギュラー番組収録時の打ち合わせで。荒井由実時代の彼女は、書きかけの松本さんの歌詞を見たのだ。横書きの肉筆だった。そんなエピソードを壇上で紹介すると松本さんがほほ笑んだ。